2014年度日本ドイツ学会奨励賞 北村 厚 氏『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』

2014年度日本ドイツ学会奨励賞

受賞作

2014年度日本ドイツ学会奨励賞は、学会奨励賞選考委員会による慎重な選考を経て、北村 厚 氏(東京成徳大学高等学校 専任講師)『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』 (ミネルヴァ書房)に決定されました。2015年6月20日、東京大学において開催された日本ドイツ学会大会での授賞式において奨励賞選考委員会の村上公子委員長から選考経過と受賞理由の発表があり、日本ドイツ学会姫岡とし子理事長から北村氏にに賞状と副賞が授与されました。

選考理由

平成14年度日本ドイツ学会奨励賞は、北村厚さんの『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』に差し上げることとなりました。奨励賞審査委員会を代表して、受賞者ならびに受賞作品をご紹介すると同時に、審査経過をご報告申し上げます。

北村さんは、1975年福岡市生まれ、2004年に九州大学大学院法学府博士課程を単位取得退学され、2007年に同大学で法学博士号を取得されました。現在は、東京成徳大学高等学校専任講師として、世界史を担当していらっしゃいます。

受賞作『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』は、九州大学に提出された博士論文を元に、7年の歳月をかけて大幅に加筆、修正されたものだそうです。

本書のテーマは、題名からも明らかなとおり、第一次世界大戦後のヨーロッパ没落という時代の流れの中で、ヴァイマル共和国ドイツにおいて希求されたヨーロッパ統合の理念と政策を解明することです。もちろん、大戦間のヨーロッパで、ヨーロッパ統合理念を追求したのはドイツに限りません。日本でもよく知られているクーデンホーフ=カレルギー伯のパン・ヨーロッパ論を初めとして、各国でそれぞれの思惑を踏まえたヨーロッパ統合論が唱えられていたようです。

北村さんのご著書は、これら複数のヨーロッパ統合論を紹介するとともに、それらを踏まえたうえでのヴァイマル期のドイツにおける独自のヨーロッパ統合理念と、それを実現させるための政策の進展、並びにそれが最終的に挫折に終わるまでの経緯を、史料に基づき、丹念に論じたものです。

次に、簡単に、審査の経過についてご報告申し上げます。

今回、奨励賞の審査対象となったのは、北村さんのご著書ともう一冊の、計二点でした。まず、審査委員全員がこの二作品を読み、それぞれ10点満点で評点をつけ、その上で、5月10日に奨励賞審査委員会を開催し、出席した委員の間で協議を行いました。今回の審査では、比較的短時間の話し合いで、北村作品に奨励賞を差し上げることが決まりました。大戦間のヨーロッパ統合論について、ドイツ史の立場から説得的に論じた点が高く評価されたものです。ただし、評者によっては、「重要な大局的テーゼと細部の事実関係の議論があまり整理されずに並べられて記述される箇所が多い」ため、わかりにくい、という批判もあったことを付け加えておきます。

日本ドイツ学会奨励賞審査委員会としては、北村さんが、これまでのご研究の成果を踏まえ、今後さらに共時的また通時的にも研究の視野を広げて、さらに充実した業績を重ねられることを心から期待いたします。

北村 厚 氏の受賞あいさつ

東京成徳大学高等学校の北村厚と申します。このたびはドイツ学会奨励賞を受賞するという、身に余る栄誉を賜りまして、感謝申し上げます。

拙著はドイツ近現代史における大きなテーマである「中欧」(Mitteleuropa)概念が、ヴァイマル共和国期においてヨーロッパ構想と結びつく性格を持っていたということを政策分析によって実証するものです。このテーゼはドイツ近現代史の研究者にとっては、「そうですよね、中欧論者はみんなヨーロッパ論じてますよね」という感じで、既知の感覚であったと思います。そんな中で私の研究に特色があるとすれば、言説分析のみで論じるのではなく、政策分析に取り組んだというところではないでしょうか。

拙著は三部構成になっていまして、第一部で思想・理念の分析、第二部と第三部で政策過程分析となっており、第一部で理念型という形で「ヨーロッパ協同体」なるTypusを抽出し、あとは政策分析の中でその理念型が現れる場面を分析していきました。そこでは時代的状況・経済構造・政策アクターを踏まえる形で、非常に古典的というか、昔ながらの愚直な政治史の分析を行ったわけです。私が学部生時代に熊本大学の桑原莞爾先生や(当時熊本県立大学にいらっしゃった)星乃治彦先生、大学院時代に九州大学の熊野直樹先生から教えていただいた歴史研究は、そういうものでした。そうしたスタンダードな政治史研究が、このたび日本ドイツ学会という場でこうして評価されたことで、諸先生方の学恩にようやく報いることができたと思っております。

私の研究は、何か生涯をかけて追究しなければならないような使命感を持って最初から取り組んだものではありません。自分が面白いと思ったテーマを一つ一つ積み重ねていった結果、その歩んできた道のりを振り返ってみて、実は全体としてやりたかったのはこのテーマだったのだと、後から理解したというものです。そのため、この研究が現代社会にとって何の役に立つのかとか、専門外の読み手を引き付けるエネルギーといったものはないかもしれません。まずは西洋史が面白いということで歴史学に取り組み、いつの間にか立派な本を刊行するまでになったわけです。

私は現在高校教師として世界史の教鞭をとっておりますが、歴史の面白さを高校生に伝えるということを常に意識して授業に取り組んでいます。例年多くの受験生が史学科や歴史関係を学べる学部を志望しています。最近文系学部は逆風の中にあり、大学を取り巻く環境は近年ますます厳しいものになっていますが、高校のほうでも歴史好き、ドイツ好きをどんどん送り込んでいくつもりですので、ドイツ史を志望する学生の居場所を残していただけるよう、先生方には頑張っていただきたいと思います。

ちょっと後半拙著の内容からずれてしまいましたが、最後に、これまでご指導いただいた先生方、そしてこの素晴らしい賞を授けていただいた日本ドイツ学会の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。