第31回 2015年 戦後70年 いま何を語るか

第31回 日本ドイツ学会大会

開催概要

  • 開催日:2015年6月20日(土)
  • 会 場:東京大学 本郷キャンパス 法文1号館・2号館

フォーラム

フォーラム1 ドイツにおけるエネルギー転換の新段階とエネルギー協同組合の役割 山下英俊(一橋大学准教授)
司会:村山 聡(香川大学教授)

ドイツにおけるエネルギー転換の取り組みは、2000年の再生可能エネルギー法施行以来15年を経て、2014年の法改正により第二段階へと歩を進めた。従来の固定価格買取制度から、より市場との統合を図りつつ、再生可能エネルギーの導入拡大を進める方向に舵を切った。本報告では、こうしたドイツの最新動向を、これまでの経緯を踏まえつつ紹介し、その中でエネルギー協同組合の果たす役割と可能性について論じる。

フォーラム2  Imaging Catastrophe: 「フクシマ」を捉えた写真の可視性、不可視性 結城円(デュースブルク・エッセン大学講師)
司会・コメンテーター:渋谷哲也(東京国際大学准教授)

本発表では、ドイツでの東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故に関するイメージとその受容について、ハンス・クリスティアン・シンクの『Tohoku』とイエンス・リープヒェンの『つくば−成田 2011/03/13』を中心に、アート分野でドキュメンタリー的要素を持った写真が受容されることにより可視化されるもの、不可視のまま保留にされる要素とは何なのかという点について、日本人作家の作品との比較から、考察を試みる。
   

フォーラム3 児童期の性的虐待被害と〈時の壁〉- ドイツにおける相次ぐ法改正の意義と課題、日本への示唆 松本克美(立命館大学教授)
コメンテーター:三成美保(奈良女子大学教授)
司会:小玉亮子(お茶の水女子大学教授)

本フォーラムでは、報告者が表記テーマに関連して本年2月にドイツで行った被害者支援に携わる弁護士や民間団体、政府機関などへのインタビュー調査を通じて得た最新の知見をふまえて、民事及び刑事の時効法改正の背景やその実効性、被害者支援のシステムや改正法の適用からこぼれ落ちてしまう被害者のために政府が設立した基金(性的虐待基金 Fonds sexuellen Missbrauch)などについて紹介・検討したい。

フォーラム4 グローバル化・ヨーロッパ化とドイツ型福祉国家の変容 司会・コメンテーター 森井裕一(東京大学教授)

メルケル政権の福祉政策と政治 近藤正基(神戸大学准教授)

本報告では、第1次および第2次メルケル政権を中心として、福祉政策と政策決定の特徴を検討する。議論の焦点となるのは、第1に、ドイツ福祉国家の「保守主義」的特徴がどのように変化したのかであり、第2に、1990年代半ばまで見られた「合意民主主義」的福祉政治が復活したのかどうかである。加えて、第3次メルケル政権の福祉政策・政治にも触れて、ドイツ福祉国家の現地点について考察したい。

シュレーダー政権期の労働市場改革に見るドイツとEUの関係 松本尚子(東京大学博士課程)

本報告では、現在に至るまでの労働市場政策の基調を形作ったシュレーダー政権期に立ち返り、ドイツが同政策分野でどのようにEUとの関係を保ったかを考察する。というのも、一見するとドイツの労働市場政策はEUが提示してきたものと概ね軌を一にしているが、これは直ちに影響があったことを意味する訳ではない。そこで、本報告では政策立案過程に着目しドイツの政策がEUから(どのような)影響を受けたのかを検証することとする。

シンポジウム

戦後70年 いま何を語るか

  • 開催時刻:13時30分-17時
  • コメンテーター:福家祟洋(富山大学准教授)・小野寺拓也(昭和女子大学講師)
  • 司会:弓削尚子(早稲田大学教授)・相澤啓一(筑波大学教授)
1.日独における「特別の道」(Sonderweg)からの離陸 –1994年7月と2014年7月– 水島朝穂(早稲田大学教授)

冷戦の終結後、ドイツは「NATO域外派兵」(out of area)という形で、ドイツ連邦軍の国際政治的利用を続けてきた。転機は1994年7月12日の連邦憲法裁判所の判決である。議会の過半数の同意により、アフガン、旧ユーゴ、中東諸国、アフリカへと連邦軍の派遣は続く。一方、日本は、遅れること10年、2014年7月、安倍内閣の閣議決定により集団的自衛権行使が可能とされた。本報告は、10年差の2つの7月を比較しつつ、ドイツにおける「特別の道」からの離陸をトレースする。

2.ふたつの「たたかう民主制」 石川健治(東京大学教授)
3.マイノリティの「特権」言説について –ドイツのユダヤ人の場合— 武井彩佳(学習院女子大学准教授)

ホロコースト後、ドイツは国内のユダヤ人の権利を回復し、その共同体の安定化を図るために、ユダヤ人に対する配慮を基本合意とした政治を行ってきた。一種の「アファーマティブ・アクション」である。これは特に入国管理において見られたが、必ずしも法律で制度化されず、むしろ社会的な同意に基づく慣習としてなされてきた面もある。ユダヤ人に対する「政治的優遇」の根拠と実態を分析し、歴史的不正を正す措置が、いつしか「特権」と呼ばれるようになるメカニズムについて考える。「在日特権」という言説がネットにあふれる日本を遠景に、特権言説の特殊性と同時に類似性をあぶりだす。

4.ドイツ現代史再考 石田勇治(東京大学教授)

「煙独」という言葉があるらしい。「嫌韓」、「反中」などと並んでネットの世界でよく使われているのだそうだ。歴史の転換点を迎えつつある現在の日本で、あえて「ドイツ現代史を語る」ことにどんな意味があるのだろう。戦後七〇年、そしてナチ体制崩壊七〇年に際し、ヴァイマル、ナチ、そして戦後のドイツ史が日本、東アジアに生きる私たちに何を示唆しているのか、あらためて考えてみたい。