第30回 2014年 地域統合とネイション

第30回 日本ドイツ学会大会

開催概要

  • 開催日:2014年6月7日(土)
  • 会 場:武蔵大学 江古田キャンパス8号館・1号館

フォーラム

フォーラム1 ドイツにおけるエネルギー転換の社会的構成 丸山康司(名古屋大学 准教授)
司会:藤原辰史(京都大学 准教授)

ドイツのエネルギー転換(Energiewende)や「脱原発」を構成する多元的な社会的文脈を明らかにしながら「結果としての持続可能性」の意義と可能性について論じたい。ドイツのエネルギー事情は「脱原発」への賛否両方の立場から紹介されているが、その社会過程に注目しているものは少ない。実際には、公共圏のガバナンス、地域分権、産業構造など、複数の領域における緩やかな変化を伴っており、再生可能エネルギーの大量導入はこれらが整合的に連動した帰結でもある。このような「結果としての環境保全」の合理性について議論を深めたい。

     

フォーラム2  旧東ドイツ社会科学者が経験した「統一」 ──ベルリン・フンボルト大学における事例研究 飯島幸子(東京大学 研究員)
司会:姫岡とし子(東京大学 教授)

本研究は「社会変動と知識人の運命」という問題設定の下、「ドイツ統一」と旧東ドイツの社会科学者をモチーフに、社会変動により生じた様々な社会システムの変更に対し、社会科学という学問そのもの、社会科学を研究する場である大学、そして大学で働く社会科学者たちの「経験」を論じる。ベルリン・フンボルト大学社会科学系2部局に在籍した研究者42名にインタビュー調査を実施し、彼らの統一前後を通じたライフヒストリーを分析した。
   

フォーラム3 オペラの危機”を読み解くために ──ドイツの劇場運営の現在 江藤光紀(筑波大学 准教授)・城多努(広島市立大学 准教授)・辻英史(法政大学 准教授)
コメンテーター:石田麻子(昭和音楽大学 教授)

小都市にいたるまでオペラ上演が可能な劇場があるドイツでは、しかし予算削減や人事をめぐる内紛など劇場の危機に関する話題に事欠かない。いまドイツの劇場はどのような活動をおこない、どのような問題を抱えているのか。高価なオペラに巨額の補助金が投入されているのは一体なぜなのか。そこから日本の劇場運営が学ぶべきものは何か。美学、会計学、歴史学のそれぞれの立場から論じてみたい

シンポジウム

地域統合とネイション

  • 開催時刻:13時30分-17時
  • コメンテーター:西山暁義(共立女子大学 准教授)
  • 司会:川喜田敦子(中央大学 准教授)・相澤啓一(筑波大学 教授)
1.ユーロ危機とドイツの役割 田中素香(中央大学 教授)

経済グローバル化に対応してEU経済のリージョナル化(単一市場と統一通貨ユーロ)が進み、ソ連崩壊と新興国の勃興が生じた。ドイツはこの波に乗り新興国へ輸出と投資を伸ばしてリーマン危機・ユーロ危機を乗り切り、危機後の制度改革を主導している。反EU・反ユーロの動きも目に付くが、主流は統合促進である。危機後の統合に果たすドイツの役割を中心に報告する。

2.反ヨーロッパ意識の政治的意味 − ドイツを中心として 森井裕一(東京大学 准教授)

EUの発展はドイツにも大きな影響を与えてきた。同時にドイツはEUの制度構築と政策決定で重要な役割を担ってもいる。政府・主要政党の政策と市民のEU認識には乖離もあり、ドイツの選択肢(AfD)のような政党も登場している。「反ヨーロッパ」とは何を意味しているのか、反EUの政策なのか、EUの存在そのものなのか、より広い地域協力のことなのか、さまざまな考えが交錯している状況を政治の側面から議論することとしたい。

3.ヨーロッパ教育の重層的展開とドイツ 近藤孝弘(早稲田大学 教授)

教育という主権に守られてきた領域にも,近年,欧州統合の波が及んでいるが,注目を集めているのは加盟国の経済発展を目的とする共通のアプローチであり,その進展のために,ヨーロッパ意識の形成というドイツが相対的に力を入れてきた課題への取り組みはむしろ停滞気味との印象が生じている。しかし教育交流や教科書等の具体的な側面に注目すると,従来の活動も続けられており,ヨーロッパ教育が重層的に展開していることが判る。

4.移民問題の変容—ドイツの移民国化およびEU拡大とトルコ系移民— 石川真作(京都文教大学 客員研究員)

ナショナリズムに関わるため、協調した対応が難しい分野でもある。ドイツにおいては、長年にわたりトルコ系移民の問題が中心であったが、半世紀を経てその状況には大きな変化が見られる。一方で、冷戦終結とEUの東方拡大に伴い、移民の問題は多様化している。本報告では、トルコ系移民をめぐる状況変化を中心に、複雑化する移民問題の現状を概観する。