第29回 2013年 領土とナショナリティー

第29回 日本ドイツ学会大会

開催概要

  • 開催日:2013年6月22日(土)
  • 会 場:お茶の水女子大学 共通講義棟2号館

フォーラム

フォーラム1 台所は誰のものか?――『ナチスのキッチン』が切り拓く地平 コメンテーター:水戸部由枝(明治大学専任講師)
司会:香川 檀(武蔵大学教授)

1)『ナチスのキッチン』前後 藤原辰史 (京都大学准教授)

『ナチスのキッチン』は、近代ドイツの台所の合理化過程を、建築、台所道具、家政学、レシピなど、さまざまな観点から論じたものである。この概略を説明したあと、今後の課題と展望について、これまでの書評を参考にしながら考えたい。

2)日本女性史におけるドイツのキュッヘ 北川圭子(北海道工業大学客員教授)

戦後,建築家たちは挙って民主的住宅を模索し、台所空間の改革を提案した。その先鋒が浜口ミホである。ミホは、その範をドイツのWohn Kücheに求めた。DKと命名されたこの空間は、若い世代の人気の的となり、わが国の住生活を一変させ,延いては女性の地位向上の象徴となった。また、住空間に生活最小限住宅追究という科学的視点も導入させた。しかし,DK のルーツがWohn Kücheであることは歴史の闇に埋もれた。

3)戦時下日本とドイツの花嫁学校研究 - 日本の新聞・雑誌の記事を中心として 伊藤 めぐみ(早稲田大学 東洋英和女学院大学非常勤講師)

①日本において、1930年代に入り設立されていく花嫁学校の展開過程と特質を三期に分けて報告する。②ドイツの花嫁学校および母親学校の概要を当時日本で出された新聞・雑誌の記事を中心に報告するとともに③それらの記事から、上記の機関が当時どのような関心を持たれ、受け止められていたのかを考察したい。

フォーラム2  ポスト脱原発を展望する――原子力施設拒絶地域/立地地域の「その後」から 青木聡子(名古屋大学准教授)
司会:村山 聡(香川大学教授)

本報告では、脱原発という選択により原子力をめぐる動きが新たな局面を迎えたドイツ社会において、何が課題として残され、それに対して人々がいかに向き合っているのかを論じる。なかでも、原子力施設無きあとの地域社会に焦点を当て、原子力施設建設計画を拒んだ地域や、受容したものの脱原発により財政基盤を失った立地自治体が、そのオルタナティブをいかに確保してきたのか、またはしうるのかを明らかにしたい。  

シンポジウム

領土とナショナリティー

  • 開催時刻:13時30分-17時
  • コメンテーター:川喜田 敦子(中央大学准教授)
  •  司会:姫岡とし子(東京大学教授)・足立 信彦 (東京大学教授)
1.領土と国益——ドイツ東方国境紛争から日本を展望する 佐藤成基(法政大学教授)

第二次大戦でオーデル=ナイセ線以東の領土を失ったドイツは、戦後東方国境をめぐってポーランドとの間に紛争が発生した。しかしその紛争は、ドイツの全面的な領土の放棄という形で最終的な解決をみた。これは20世紀の国境紛争史のなかでは特異な例である。なぜそのようなことが可能だったのだろか。また、この紛争解決の経緯は、現在日本が抱える領土問題にとって何らかの指針となるのか。本報告ではこれらの問題について考えてみたい。

2.失われた東部領/回復された西部領――ドイツ・ポーランドの領土とオーデル・ナイセ国境 吉岡 潤(津田塾大学准教授)

第二次世界大戦の結果、ポーランドはドイツから領土を獲得する。戦後政権は新たにポーランドの領土となる地を非ドイツ化し、「ポーランド人の」領土にしようとした。領土・民族問題の20世紀的解決なるものが想定できるとすれば、これはその極端な型の一つだったと言えはしまいか。本報告では、ポーランドで「回復領」と呼ばれた旧ドイツ東部領のポーランド化の諸相を検討し、同地がドイツ・ポーランドの現代史において担った意味について考察する。

3.多民族国家の解体と「ドイツ人」意識の変容 
  ―両次大戦間期ルーマニアにおけるユダヤ系およびドイツ系ドイツ語話者を事例に― 藤田 恭子(東北大学教授)

第一次世界大戦後にハプスブルク領からルーマニア領となった地域には、数多くのユダヤ系およびドイツ系ドイツ語話者が居住していた。「帝国民」であると同時にドイツ語を母語とする「ドイツ人」でもあるといった多民族国家時代の多重的自己意識は、国民国家内のマイノリティとなった後、共有不能となる。ドイツ政府による「在外ドイツ人」政策にも触れつつ、ドイツの外周地域の視点から、「ナショナル・アイデンティティ」をめぐる問題の一端を照射する。

4.領土と国籍・市民権――「ナショナルなもの」を考える 広渡 清吾(専修大学教授)

近代国家は、「主権」を絶対的要素とし、主権の対象として、「領土と国民」を実在的与件とする。土地に対する支配は、通常その土地に住む人々に対する支配を含むが、近代において国家と国民の関係は、土地に対する支配とは独立に、観念的、抽象的な「保護と忠誠の関係」として次第に確立する。この関係を表現する制度が、国籍である。また、歴史をみると、戦争等に起因する領土の変更が、そこに住む人々の国籍の変更を産み出すことがある。他方で、国籍者は、その国のなかで完全な市民権を有するが、歴史的にも、概念的にも国籍と市民権は異なった機能を担う。これらの問題をドイツと日本に例をとりながら分析し、現代において「ナショナルなもの」を再検討する手掛かりをえたい。

5.ヘルゴラント島と竹島/独島 ⎯ 日独比較の観点から ラインハルト・ツェルナー(ボン大学教授)

Ausgehend von einem Vergleich der Ereignisse um die Rückgabe der Insel Helgoland und die Forderung nach Rückgabe der Inselfelsen Takeshima / Dokdo analysiert der Vortrag die historischen Positionen und Argumentationen der japanischen und koreanischen Seite. Er stellt die Frage, warum die interkulturelle Kommunikation in diesem Fall bislang gescheitert ist. Er setzt sich für eine Lösung ein, die der symbolischen und politischen Bedeutung dieser Inseln für die japanisch-koreanischen Beziehungen entspricht. (報告は日本語でおこなわれました。)