日本ドイツ学会設立趣意書

日本ドイツ学会設立趣意書

 わが国では、在来ドイツ文化ないし社会に関する研究は、ともすると個別の分野の内部のみで行なわれる傾向がありましたが、その際閑却されがちであった視点や問題領域を補うために、専門分野を異にする者が相互の情報を交換し議論し合う場を設け、さらに学際的な総合をはかる必要があると思われます。その意味からもドイツ語圏に対して広く文化的・社会的関心を持ちつつ、人文・社会諸科学の再活性化と国際化を目指すことが求められるでありましょう。またそれによって、全く異質な文化圏にありながら、他方では共通の現代的地平にも立つ日本の西洋学の立場を十全に生かすことが可能になると思われます。「日本ドイツ学会」はこうした見解にもとづいて、以下の諸点に留意して研究活動を行なってゆきたいと存じます。

① 個別科学の対象領域は、他領域との密接な関連に立っているが、その関連は学際的にのみ把握することができる。このような認識はまた逆に個別科学の自己理解にとっても不可欠である。従って、さまざまな学問領域の研究者の対話および共同作業の場を設ける。

② 個別科学は各文化圏における暗黙の前提のもとに成立していることは言うまでもない。それゆえ、異文化間の理解は、比較・対照に視点をとると同時に、その都度の視点ならびに文化の相対性を意識化することによってのみ可能となる。従って、文化を異にする研究者の対話および共同作業の場を設ける。

③ 学術研究は、それ独自の自律性と必然性をもって展開されるとともに、なんらかの意味で広く社会の変化に対応し、また社会の要請に応える性質をもっている。その意味において、学術研究と社会との相互連関性に対する科学社会学(Wissenschaftssoziologie)的アプローチが求められる。従って、研究者と、実践の場において経験を積んだ人々との間の対話の機会を設ける。

④ わが国における西洋諸科学の受容は、個別科学の先端的成果を選択する形で行なわれてきたが、その反面、社会的期待を充足する働きをももっていた。それに伴う独特な一面性も見のがすことはできない。こうした受容に関する問題群を反省的にとらえる場を設ける。

 以上のような問題関心にもとづいて、機関紙(会報)の刊行、種々の研究会、シンポジウムの開催、学術的な交流はもとより、さまざまな面でのドイツ語圏とのコミュニケーションを促進し、かつまた相互理解に寄与したい。研究活動は広く外に開いたものとし、学術的なテーマによるゼミナール、講演会の開催ならびに研究者の招聘派遣などを通じての交流促進をはかってゆきたい。

1985年4月25日

日本ドイツ学会設立準備委員会メンバー

麻生 建/天野正治/伊藤光彦/上山安敏/大島道義/小塩 節
木村直司/轡田 収/島野卓爾/下村由一/角倉一朗/詫摩武俊
辻 王星(ヒカル)/寺尾 誠/徳永 恂/成瀬 治/早川東三/三島憲一
南大路振一/村上淳一/柳澤 治/渡辺二郎(アイウエオ順)

設立総会・第1回シンポジウム

● 日 時: 1985年6月1日(土) 13時より
● 会 場: 学習院大学創立百年記念会館
● テーマ: ドイツ関係学の現状と展望
● パネラー: 村上淳一/富永健一/轡田 収/伊藤光彦/柳澤 治