第32回 2016年 若者が<政治>に関わるとき

第32回 日本ドイツ学会大会

開催概要

  • 開催日:2016年6月12日(日)
  • 会 場:早稲田大学 早稲田キャンパス 8号館

フォーラム

フォーラム1 環境保全型社会への道とその支援 ―GLSとエネルギー協同組合の役割 司会:藤原辰史(京都大学人文科学研究所 准教授)

1)ドイツにおけるエネルギー協同組合の役割と課題、そして新展開 寺林暁良(農林中金総合研究所 主事研究員)

ドイツのエネルギー転換は多数の市民に支えられているが、市民が共同で再生可能エネルギー事業を立ち上げる際の組織形態として、協同組合は主要な選択肢の一つに挙げられる。エネルギー協同組合は、再生可能エネルギー法の2014年改正をはじめとする諸々の課題に直面しているが、こうした状況は協同組合としての役割や意義を問い直し、新たな事業モデルを展開する契機にもなっている。エネルギー協同組合の役割と課題を整理しつつ、今後の展開可能性について議論したい。

2)GLSにおける環境保全型農業支援 林 公則(一橋大学大学院経済学研究科 特任講師)

GLSは、贈与された資産を扱う信託財団(Treuhand)として1961年にドイツで設立された。1974年には銀行部門が加わった。環境保全型農業は、GLSが設立直後からこだわって支援を続けてきた分野である。本報告では、現在、環境保全型農業を支える有力な方法と目されるまでになっているGLSの支援の方法を明らかにする。具体的には、農業共同体、農業ファンド、ビオ土地ファンドなどについて紹介する。

フォーラム2  統一ドイツポピュラー文化の意外な起源
  ―東ドイツ映画音楽・文化政策・亡命ユダヤ人― 高岡智子(静岡大学 講師)
司会・コメンテーター:渋谷哲也(東京国際大学 准教授)

ベルリンの壁崩壊後、東ドイツで誕生したロックは「オストロック(Ostrock)」と呼ばれ、再統一後のドイツポピュラー文化の一翼を担っている。東ドイツの音楽文化がなぜ現在のドイツでアクチュアリティを持つのか。本報告では、「資本主義的」とされるロックがなぜ東ドイツで誕生したのかという問いを出発点に、実験場としての映画音楽、国家主導の文化政策、東ドイツに帰還した亡命ユダヤ人作曲家の3つのテーマについて論じ、東ドイツの国家と音楽との興味深い関係性について考察する。

フォーラム3  だれもがプロの演者、あるいは日常のエキスパート
  ―リミニ・プロトコルのドキュメンタリー的「舞台」 萩原 健(明治大学国際日本学部教授)
コメンテーター:相澤啓一(筑波大学人文社会系 教授)
司会:香川 檀(武蔵大学人文学部 教授)

ギーセン大学で応用演劇学を修めた3人の演出家集団、リミニ・プロトコルのプロジェクトは実に独特である。俳優を職業としない演者がそのひと本人として登場し、あるいは、街が舞台、観客が参加者=演者と見なされる例さえある。既成の演劇観/芸術観を揺さぶり、市民の社会参画を促していると見ることも可能な彼らの仕事について、その日本公演で通訳や字幕翻訳・操作を務めた発表者がスタッフとしての視点を交えつつ考察する。

シンポジウム

若者が<政治>に関わるとき

  • 開催時刻:13時30分-17時
  • コメンテーター:青木聡子(名古屋大学環境学研究科 准教授)・西城戸誠(法政大学人間環境学部 教授)
  • 司会:小野寺拓也(昭和女子大学人間文化学部 専任講師)・辻 英史(法政大学人間環境学部 准教授)


3・11以降、日本の政治状況に大きな変化が現れつつある。それは、「1968」以降日本ではきわめて下火であった、大規模な社会運動の広がりである。とくに2015年には安保法案の採決をめぐり、「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急運動)」を中心とした若者の政治活動が活発になった。これは「アラブの春」、アメリカ・ニューヨークのオキュパイ運動、香港、台湾、タイなどアジア各地での動きとも軌を一にしたものでもある。2016年、日本でも18歳選挙権がいよいよ始動するが、今年度のシンポジウムでは「若者と政治」というテーマを取り上げ、日本社会の状況や展望をドイツの歴史的経験や現状と比較しながら考えていきたい。

小野寺拓也・辻 英史
1.若者と「怒れる市民」の抗議運動 ―AfDとペギーダを例に 佐藤公紀(東京大学 学術研究員/在ドイツ日本大使館 専門調査員)

「怒れる市民(Wutbürger)」は、「シュトゥットガルト21」プロジェクトの反対デモやザラツィン論争でみられたような、既存政党・体制に反発して異議申し立てを行う保守層を指すものとして用いられる言葉だが、現在ドイツで最も勢いのある政治勢力の一つである「ドイツのための選択肢(AfD)」や、反イスラム・反移民を掲げる抗議運動「ペギーダ」も、こうした人びとの抗議活動の延長上に捉えることができる。これらの運動には、若者のみならず比較的裕福で社会的地位の安定した人びとが多く含まれており、必ずしも若者が主たる運動の担い手であるとは言えない側面がある。これを踏まえて、本報告ではAfDとペギーダを題材として若者と大人の関係性に留意しつつドイツの抗議運動と政治の現在について考えてみたい。

2.「若者の抗議」からみる戦後ドイツ ―「1968年」を中心に 井関正久(中央大学法学部 教授)

戦後ドイツにおける「若者の政治との関わり」を象徴するものとして、60年代後半の学生反乱があげられる。本報告では、戦後第一世代の若者がいかなる抗議を展開し、社会にどのような影響を及ぼしたのかを考察する。さらに、「68年世代」を中心にその後展開された諸運動の成立・発展過程を検証するととともに急進化の背景を探る。最後に、ドイツ統一後に強まった「右からの抗議」をとり上げ、今日、難民問題を背景に新たな展開を見せる右翼運動について考える。

3.政治教育の意図と現実 ―戦後ドイツとオーストリアの比較から― 近藤孝弘(早稲田大学教育学部 教授)

政治教育のお手本としてドイツの例が語られるとき、しばしば二つの問題が生じる。第一にその過程で過度の単純化が進むことであり、第二に、戦後初期のドイツとは異なる今日の日本の政治的環境のもとでは、その発展過程をトレースするのは困難と考えられがちなことである。しかし、政治教育の後発国としてオーストリアを視野におさめるとき、それらの認識上の問題がある程度緩和されるだけでなく、私たちの社会が抱える課題がより一層明らかになる。