第27回 日本ドイツ学会大会
開催概要
- 開催日:2011年6月25日(土)
- 会 場:朱鷺メッセ:新潟コンベンションセンター
フォーラム
1.中国、日本、満洲のドイツ人社会とナチズム ― ナチ的統制と地域性
中村綾乃(お茶の水女子大学)
コメンテーター:弓削尚子(早稲田大学)
1931年2月、中国・漢口でナチ党支部が発足した。その後バタヴィア、上海、香港、ヒトラーの「権力掌握」後には、日本で京浜、阪神、九州支部が発足し、当地のドイツ人社会のナチ化が進められていく。社会格差の是正を謳ったナチズムは、商人を中心とするドイツ人社会のなかで、どのような反響を巻き起こしたのか。近年のナチズム研究の流れに棹さし、日常的な社会関係、人間関係の中で、住民が主体的にナチズムに加担した側面に注目し、ナチズムが現地社会に適応していく過程を明らかにしていく。
2.日独交流史を読み解く新たな視座:ポストコロニアルな文化交流史研究の構築に向けて
辻 朋季(筑波大学)
コメンテーター:楠根重和(金沢大学)
「日独交流150周年」に際し本発表では、これまで友好関係が強調されがちだった日独文化交流史を、ポストコロニアリズムの理論や研究成果も踏まえて多角的に捉え直す。日独交流の様々な事象を、個々に完結した逸話としてのみ論じるのではなく、今まで等閑視されてきた視点(特にドイツの、また日本の植民地主義の影響)を取り入れることで新たに見えてくる様相を再検討しながら、今後の文化交流史研究の可能性について考察してゆく。
シンポジウム
音楽の国ドイツ? ― 音楽と社会 ―
- 開催時刻:13時30分-17時30分
- 司会:玉川裕子(桐朋女子高等学校音楽科)・渋谷哲也(東京国際大学)
- コメンテーター:井上さつき(愛知県立芸術大学)
「ドイツはクラシック音楽の本場」というのは、現代日本の多くの人々に共有されているイメージだろう。しかしこれは、18世紀中葉まで音楽後進国であったドイツが、国民国家形成過程でナショナル・アイデンティティの一手段として作り上げていった、いわば神話である。本シンポジウムでは、この神話の生成とその後の展開 ―20世紀後半に至るまで― を辿ることによって、階級、民族、ナショナリズム等の社会的・政治的諸問題に文化戦略がどのように関わっているのか議論していきたい。
玉川裕子
1.「音楽の国ドイツ」の成立と崩壊 ― 市民社会・国民国家・音楽 松本 彰(新潟大学)
ドイツは「音楽の国」と言われる。しかし、そうなったのは18世紀の後半以降だった。貴族社会の18世紀前半までは、音楽といえばイタリア、フランスだった。19世紀にはコンサート(公開音楽会)という社会的制度が成立し、音楽はドイツ市民社会を代表する芸術となった。しかし、20世紀になるとドイツ音楽は、きびしい政治的対立に巻き込まれ、ナチズム下では「頽廃音楽」が排除された。ドイツにおける市民、国民の多義性をふまえつつ、18、19、20、21世紀のドイツにおける市民社会、国民国家、音楽の歴史を考える。
2.混合趣味の盛衰と民謡の発見 ─ 十八世紀ドイツ音楽とナショナル・アイデンティティ 吉田 寛(立命館大学)
フランスとイタリアの音楽的趣味を折衷した「混合趣味」は、テレマンやグラウンなどドイツ人音楽家の得意技として十八世紀半ばに隆盛を極める。だが十八世紀後半以後、混合趣味はむしろ「非ドイツ的」として次第に退けられていく。それはヘルダーらの「民謡」の発見(ないしは創出)により、音楽における「ドイツ的なもの」のあり方が短期間で大きく転回し、「固有で根源的な趣味」が必要とされるようになったことの帰結であった。
3.変容する市民文化のなかの「ドイツ音楽」 長木誠司(東京大学)
ドイツの国家アイデンティティ形成の動きは、世紀転換期から第一次世界大戦を経て、ナチズムにいたって極端な形で達成されることになるが、そのなかで〈古典〉からワグネリズムに到る音楽は、ドイツ固有の文化を表象させるものとして大いに利用された。しかしながら、それはドイツに限らず、ジャズに代表されるような第一次大戦前後のアメリカニズムの流入や新たな都市文化に対する、旧来の市民文化の最後の抵抗だったとも言える。
4.大衆音楽と空間表象 高橋秀寿(立命館大学)
この報告は、民謡・フォークにはじまり、商業的音楽としてのオペレッタ、流行歌、さらにはロックン・ロールやビート音楽、そして「NDW(ニュー・ジャーマン・ウェーヴ)」にいたるまでの大衆音楽の歴史的推移を追いながら、これらの音楽がどのように「故郷」を表象してきたのかを検討することによって、ポストモダンやグローバル化と呼ばれている現在の近代化の特色を空間表象の歴史的変遷の観点から示唆することを目的とする。