第26回 日本ドイツ学会大会
開催概要
- 開催日:2010年6月12日(土)
- 会 場:成城大学3号館
フォーラム
1.ボローニャ・プロセスとドイツの大学改革
木戸 裕(高崎経済大学・非常勤講師)
司会:長島啓記(早稲田大学)
ヨーロッパでは「ボローニャ・プロセス」と呼ばれる高等教育改革が進行中である。これはヨーロッパ46か国が参加して、ヨーロッパの大学の間を自由に移動でき、ヨーロッパのどこの大学で学んでも共通の学位、資格を得られる「ヨーロッパ高等教育圏」を構築しようという試みである。「ボローニャ・プロセス」が展開されているなかで、ドイツの大学がどのような変貌をとげているのか、近年におけるドイツの大学改革の状況を紹介する。
2.『出稼ぎ野郎』から『売人』へ ― ドイツ映画における移民の表象について
渋谷哲也(東京国際大学)
司会:香川 檀(武蔵大学)
映画において<よそ者>は、ドラマのサスペンスの盛り上げや、社会の疎外感を浮き彫りにする機能を持つ重要な要因である。また他者へのまなざし、他者からのまなざしという双方向の関係性を映画は多層的に主題化する。こうした映画独自の美学の観点からドイツ社会の移民の表象を再検証する。とりわけR・W・ファスビンダーとトーマス・アルスランの作品を中心に取り上げ、60-70年代と現代の作家映画における特徴や相違点もあわせて考察したい。
シンポジウム
<環境大国>ドイツ?
- 開催時刻:13時30分-17時30分
- 司会:村上公子(早稲田大学)・西山暁義(共立女子大学)
- コメンテーター:藤原辰史(東京大学)
1.ナチズムと景観エコロジー 小野清美(大阪大学)
ナチズム下では、「帝国自然保護」が成立し、また、国家プロジェクトたるアウトバーン建設や四〇年代初めの東部総合計画においても、エコロジー的要素をも含む景観形成が大きな主題となる。ナチズムと自然保護、景観形成、エコロジーがどのような関係にあるのか。本報告は、この問題を、郷土保護運動の展開、これを背景とするアウトバーン建設における「景観代理人」の思想と活動、ナチ・リーダーによるその受容を通して考察する。
2.ドイツにおける環境政策のイノベーション ─ その源流から環境ガバナンスまで 坪郷 實(早稲田大学)
ドイツにおける環境政策は1970年代初頭に開始される。しかし、それ以前にも、自然保護や景観保護・地域保全、大気浄化など多様な源流がある。1970年までの環境政策の源流、ブラント政権期、コール政権期、シュレーダー連立政権期以降、それぞれの特徴を比較し、環境ガバナンスの特徴を論じる。関連して、環境政策に対する環境運動のインパクト、環境政策の失敗例(「高速道路速度制限」未実施等)、環境政策のヨーロッパ化を取り上げる。
3.エコロジー的近代化論と「緑の産業革命」 長尾伸一(名古屋大学)
現代ドイツが「環境大国」とみなされる大きな理由は、環境保護を単独でなく、経済、社会政策と結びつける体系的な政策枠組みが構想されていることにある。その背景にある考え方として、80年代後半から政治理念として登場してきた「エコロジー的近代化」論(「産業社会のエコロジー的構造転換」論)をとりあげる。それは今世紀初頭にはEUの経済社会発展政策に基本構想を与え、再生可能エネルギー政策の成功によって、現代ドイツの国策、またEUの公式政策として国際舞台に登場するにいたった。本報告は「エコロジー的近代化」論の歴史を概観しながら、現在議論されている「緑の産業革命」論の紹介と検討を通じて、それが含意するものを探っていく。
4.環境政策を環境倫理から捉える視座 ─ ドイツの環境政策と環境思想の狭間 鬼頭秀一(東京大学)
人間が環境にどのように向き合い、かかわるべきかという基本的枠組みが環境倫理である。環境政策の背景には環境思想があり、環境政策を環境倫理の視点から検証し評価することが必要である。本報告では、ドイツのナチズムの思想的な再検証も含めて、環境政策のあり方の理念的な再検討を行い、そのことを通じて、多様なローカリティに根ざし、なおかつ普遍的にも意味のある環境倫理を提示し、それに支えられた環境政策を展望したい。