第22回 日本ドイツ学会大会
開催概要
- 開催日:2006年6月10日(土)
- 会 場:立命館大学 衣笠キャンパス
フォーラム
1.ドイツと中国 ― 第一次世界大戦前後のドイツと孫文の関係を中心に
田嶋信雄(成城大学法学部)
司会:平島健司(東京大学社会科学研究所)
ドイツは中国という他者との関係でどのような存在であったのか。本報告では、主としてドイツと孫文の関係を取り上げ、午後のシンポジウムのテーマに便乗する形でこの問題を考えてみたい。取り上げたい論点は、孫文のドイツ観、辛亥革命とドイツ、日独戦争、中国の対ドイツ宣戦布告、中国の対独講和条約(ヴェルサイユ条約)調印拒否、独中条約、中国国民党代表団(蒋介石) のコミンテルン訪問、国民党一全大会における「連ソ容共」路線の形成とドイ ツの関係、在華ドイツ軍事顧問団の形成と中国の統一、などである。
2.ドイツの家族政策にみる育児支援の課題
古橋エツ子(花園大学社会福祉学部)
司会:本澤巳代子(筑波大学人文社会科学研究科)
ドイツの家族政策にみる育児支援は、東西ドイツ統合後に大きく変化している。とくに、東西ドイツの育児保障は、西ドイツの法制度により統一されたため、東ドイツの働く女性への影響は大きかった。また、女性が家族政策上どのように位置付けられているのかは、政策を実施する際の課題となってくる。母性神話と保育サービスの関係、就労と育児のバランス、親の役割と社会の役割など、北欧の家族福祉政策の影響や議論も含めて述べたい。
3.近代日独における「ITのジェンダー化」:電信・電話技術を事例にして
石井香江(日本学術振興会特別研究員・一橋大学)
司会:姫岡とし子(筑波大学人文社会科学研究科)
2000年度の日本の国勢調査によれば、有線・無線通信従事者には男性が、電話交換手には女性が圧倒的に多いことが分かる。IT業界における男女間の分業は、これが生物学的運命でないならば、いかなる社会的機制によって生じたのだろうか。本報告では、近代の日独両国で確認できる、電信=男/電話=女という「ITのジェンダー化」に着目し、この過程を比較検討する。これによって、特定のITと特定の性別が結びつくに至るミクロな機制を解明する手がかりを探りたい。
シンポジウム
他者との関係──ドイツの場合
- 開催時刻:13時45分-17時45分
- 司会: 高橋秀寿(立命館大学文学部)・本澤巳代子(筑波大学人文社会科学研究科)
1.アーレントと他者、アーレントの他者 細見和之(大阪府立大学人間社会学部)
ハイデガー、ヤスパースはもとより、夫ブリュッヒャー、ベンヤミン、さらにはアイヒマンなど、さまざまな「他者」との関わりのなかでアーレントは思考を紡いだ。そのなかから、ギリシア=ヨーロッパ的なアーレント像に対して、むしろ反ギリシア=反ヨーロッパ的な「ゾーエー」の思想家としてのアーレントを浮かび上がらせたい。生誕百年を迎える時代に、アーレント自身のうちにアーレントの他者を、いわば野生のアーレントを探りたい。
2.戦後ドイツの中のユダヤ人 ― 他者性の肯定 武井彩佳(早稲田大学比較法研究所)
ホロコースト以後、ドイツ人とユダヤ人の関係は根本から変化した。かつての「ユダヤ教徒のドイツ市民」としての自己定義は無効となり、彼らの戦後は、「ユダヤ人」としての民族性とドイツにおける自らの「他者性」の肯定に凝縮される。ユダヤ人としての認知を求めることは、特殊な政治的・社会的要求(補償やイスラエル支援など)をドイツ側に認めさせることでもある。両者の関係の変遷を概観し、そこから生まれるアイデンティティや問題点を考察する。
3.ドイツと西南アフリカ / ナミビア 永原陽子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
ナチズムの歴史の圧倒的な重みの陰に従来ほとんど顧みられることのなかった植民地主義の歴史が、近年のドイツで、克服されるべき「もう一つの過去」として盛んに論じられている。報告では、ドイツ史において植民地的「他者」を認識することの積極的意味とそれが孕む問題について、ナミビア(旧ドイツ領西南アフリカ)の人々からの植民地戦争被害に対する補償要求とそれへのドイツ側の反応を手がかりに考えてみたい。
4.ドイツと他者問題 ― 地政史的視点から ― コメント:徳永 恂(大阪大学名誉教授)
集団のセルフ・アイデンティティは他者との対立・対照をつうじて形成される。近代(キリスト教)ヨーロッパは、外部の他者(異教)イスラムと内部の他者(異端)ユダヤとの対立をつうじてセルフ・アイデンティティを確かめてきた。しかし現代では内部の他者(異教)イスラムとの関係が問題となっている。ヨーロッパ内におけるドイツの特殊性。アイデンティティ概念再考。トルコ加盟問題をめぐって。
5.戦後ドイツにおける基本権保障の意義と展開 高田 篤 (大阪大学法学研究科)
ボン基本法に、ナチズム、コミュニズム(「敵」)への対抗という観点が強く反映されていることもあり、それが保障する基本権の内容も、当初ネガティブに規定されたものであった。しかし、裁判所等における憲法実践が重なるにつれ、その内容が、「相違」、「他者」を「抱え込 (ertragen)」めるような形で充填されていった。裁判所がそのような役割を果たし得たメカニズムを、裁判所をめぐる問題・課題とともに解明することに努めたい。
6.ドイツの鏡に映る「日本の人権戦略」 ― 「在日」によせて コメント:望田幸男 (同志社大学名誉教授)
「他者との関係」を日本の場合で問うとすれば、在日韓国朝鮮人の問題が量的にも、また独自な問題性という点でも注目される。彼らは自らの「選択」によって「在日」となったのではない。1991年以降、「永住問題」に展望が見えてきたが、教育・社会福祉や地方参政権、国籍取得をめぐる「心の葛藤」などの現実の諸問題が、戦後補償・植民地支配の未決の歴史課題と重なり、これをどう解くかは日本の人権戦略の根幹にかかわってくる。